タイタンの妖女

“The Sirens of Titan” Kurt Vonnegut


“「きみがある男のところへ行って、『やあ、景気はどうだい?』と聞いたとしたまえ。むこうは、『ああ好調、好調──申し分なし』というだろう。ところが、そいつの目をのぞきこんでみると、申し分だらけ、というのが本音だ。ぶっちゃけた話、だれもかれもこの世にはうんざりしているのさ、人間ひとり残らず。しかも救われないのは、なにひとつたいして助けにならない、ということだ」”


“「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」と彼女はいった。「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」”


“人生の目的は、どこのだれがそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っているだれかを愛することだ”


“だがな、天にいるだれかさんはおまえが気に入ってるんだよ」”


◆あらすじ

時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。(Amazonより)


荒唐無稽なSFでありながら、そこに描かれているのは、私たちの人生に降りかかる「どうにもならないもの」へのあきらめや、それに翻弄される中で何に幸せを見いだすのかといったかなり哲学的な主題でした。


人生には病気とか、天災とか、「自分ではどうにもならないもの」が死ぬほどあるわけだけど、それに武力・知力を結集してあらがうのがハリウッド映画(『アルマゲドン』とかね)であり、なんとなく「困難は乗り越えていきましょう」みたいなのが正しいという空気があると思うんです。


でも、正直それってあくまでエンターテイメントの話であって、自分の人生でそんな力入れていたらポッキリ折れてしまうと思うんですよね。ハリウッド映画は2時間かそこらで終わるから面白いのであって。


まして、本当に地獄の底をのぞいた人(ちなみに作者のヴォネガットもWW2でドイツのドレスデン爆撃を経験してる)は、そんな気力が湧くはずもない。でも、そんな諦念の中で救いとなるのは、身近な人を愛すること、あるいは「利用」という言葉であっても必要とされることなのでは、というのがこの作品のポイントだと思います。


そう思ってみると、クソつまらなく思えた前半の流浪の旅は、あの穏やかなラストシーンを迎える為に必要不可欠なストーリーであり、頑張る気力さえ捥がれた人のための再生の物語なんでしょう。


ヴォネガットの作品は最初の1冊読み切ればハマるのでぜひ。




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