悪童日記
Le Grand Cahier Agota Kristof 1886
“「私の愛しい子! 最愛の子! 大好きよ……けっして離れないわ……かけがえのない私の子……永遠に……私の人生のすべて……」 いく度も繰り返されて、言葉は少しずつ意味を失い、言葉のもたらす痛みも和らぐ。”
“帰路、ぼくらは道端に生い茂る草むらの中に、林檎とビスケットとチョコレートと硬貨を投げ捨てる。 髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。”
“こちらから呼ぶと、死はけっしてやって来ない。私たちを苛んで、面白がっているのよ。何年も前から私が呼んでるのに、死は、私を無視したままだわ”
【あらすじ】
戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理―非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。(Amazonより)
戦争中の子どもたちの暮らしを描いた作品は数あれど、これほど怪物じみたものはないだろう。この「日記」の体裁をとった作品お涙頂戴でも、「困難の中だからこそ子どもたちの純真さが〜」といった「こどもはこうあるべき論」に染まった話でもない。
だまし討ちに嘘といった謀略奸計を用いて、「ぼくたち」は戦争に、暴力に、人々の悪意に、そして何より子どもを弱者たらしめたる大人に対峙していく。そこには道徳も希望もない。あるのは「ぼくたち」2人だけのルールであり、一切の他者の介入を許さない。
この他者を拒絶する隙のなさが、ある章ではコミカルに、ある章では背筋が寒くさせる、まさに怪作を怪作たらしめたる理由だった。
ちなみにこれは「ふたりの証拠」「第三の嘘」という続編があり、この双子の正体、衝撃的なラストシーンのその後が書かれているのでこちらもそのうち。
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