夜は短し歩けよ乙女
『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦
“杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味”
“彼女の後頭部が焼け焦げそうな熱視線を放ち、私は心の中で呼びかけた。 そんなやつを読む閑があったら、むしろ私を読みたまえ。なかなかオモシロイことが色々書いてあるよ。”
“私は身支度をしながら、先輩と何を喋ろうと考えました。 私には先輩に色々と聞きたいことがあったのです。先輩はあの春の先斗町で、どんな夜を過ごしたのでしょう。また、夏の古本市で食べた火鍋の味はどんなものだったのでしょう。そして秋の学園祭では、偏屈王を演じるために、どんな冒険をしたのでしょう。私の知らないところで、先輩はどんな時間を過ごしていたのでしょう。私はそれがとても知りたいのでした。”
私は常々文章が上手い作家には2種類いると思っている。
1つ目は皆がつかう言葉だけつかい、シンプルなのに絶対に忘れられない文章を書く作家。例えば、太宰治や江國香織など。
そしてもう2つ目は、奇々怪々な言葉の連続でこれでもかっていうほどの言い回しオンパレードな作家。例えば三島由紀夫。
もちろん、森見登美彦はこの2つ目で、人によっては「うざっ!」ってなりかねないほどのもったいぶった言い回しなのだけど、私は好き。
だって、“杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味”なんてフレーズを知ってしまったら、たいして好きでもない杏仁豆腐にもどこか愛着が湧いてしまうし、人生を杏仁豆腐の味だと思ったらこの先私は幸せに生きていけそうな気がしてしまうから。
森見さんはいつもモテない文化系男子ばっかり書いているけれど、こんな表現ができる人はきっとモテるんだろうな、と思ってしまった。
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